前回、少し興奮気味に、Apple Music Classical から次々と推されてくるクラッシック音楽の新譜について、書かせていただきましたが、この間まったく冷めません。例年この時期は、クラッシック音楽からは一番縁遠い生活を送る頃ですし、特に、近年のように、命さえ落としかねないような気温や湿度、そして、1日の中でも繰り返されているゲリラ豪雨の下では、外に出るのも命懸けのような感じがして、レゲエでもかけていれば、気持ちよくなれた昔が嘘のようです。
実家が新築されたのは、たしか、ぼくが小学校の2年の頃でしたが、その新築のお家には、クーラーはなくて(3Cなんて言われてましたね。)、ぼくが小学校の高学年になった頃、ちょくちょく光化学スモッグ注意報が出るようになって、みかん箱みたいな大きさでしたが、1台目のエアコンが入ったのが、たしか、小学校6年の時でした。つまりは、ぼくの小学校の頃は、サイダーかラムネを飲んでいれば、エアコン抜きに朝まで寝ることができていて、庶民の食べ物として毎週膳に上っていた鰻を食べて、夏を越えることができた訳です。今では考えられないことですね。
横道に逸れてしまいましたが、そんな灼熱の最中に Apple Music Classical で推された音源を次々と堪能しています(先月は、ブルースの85年のスタジアムライブの音源が発表されたというのに、目もくれずです。)。
前回書かせていただいたもの以外で、まず、ピアノでは、アンナ・ヴィニツカヤという名前からも顔立ちからもタッチからもロシアを感じさせるピアニストの Piano Dances というラベルなどを中心とした、アルバムが素晴らしかったですね。言われなければ(知らなかったら)作曲者の名前を当てることは到底不可能な Puppentänze という Dmitri Shostakovich のチャーミングな小品を知ったことが何よりの収穫でした。
また、アンドレイ・ググニンというぼくには未知のピアニストのグリーグの作品集がとても良かったです。グリーグといえは、なんと言っても、ギレリスの残した叙情小品中が人生の1枚になっていましたが、アンドレイ・ググニンの今回のアルバムでは、Lyric Pieces, も良かったですが、管弦楽版で何度も聴いている筈のホルベアの時代がこんなにもいい曲だとは、ついぞ気づいていませんでした。擬似バロック的な風味が絶品です。
さらに、イム・ユンチャンというやはり未知のピアニストが録音したショパンの練習曲集も素晴らしかったです。ウキを見ると、韓国生まれで、一昨年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでで史上最年少の18歳で優勝したと書かれていますので、上手な訳です。練習曲集といえば、なんといっても、これまでずっと70年代にポリーニが達成したところがあり、後進はそれを意識せずにはいられないところで、迂闊というか、ちょっと手が出せないとこだと思うのですが、やはり、クライバーンで優勝、そして、2年経って、二十歳ということになれば、これは挑戦したくなるものではないでしょうか。といっても、聴いた感じでは、挑戦的挑発的に飛ばすのではなく、全体をよく見通したものになっていて、最後に山がくるように設計されているところがとても理知的なものを感じます(私だけかもしれませんが、ポリーニ盤では、最初から、全速力で冴えざえと切っていくので、作品25の後半の方で、少し息切れするように感じられるのです。)。
そして、こちらはもう大ベテランだと思いますが、Pierre-Laurent Aimard のシューベルトのワルツを集めた作品が、これまた知らない曲集だったのですが、ちょっと、一種独特なおフランな雰囲気でえらく気に入りました。
加えると、ブラームスの歌曲をピアノ独奏用に編曲した曲集をこれまたベテランの Rudolf Buchbinder が弾いているアルバムがどの曲も素敵で、子守唄などうっとりしてしまいます。
秋の人ブラームスをこんな季節に聴いていることが信じられないですが、弦の入っているものでは、トリオ・ソーラというグループのピアノトリオや、グリンゴルツ四重奏団にリッリ・マイヤラというこれまた未知の人の加わった弦楽五重奏も出だしだけで完全に持っていかれるほど素晴らしかったです。
そして、真打は、諏訪内晶子です。ブラームスのヴァイオリン・ソナタの全集が出ました。それこそ、音の鳴った瞬間に部屋の空気が特別な空間に変わるような気がします。彼女は、コンクールに優勝した10代の時から、他にない特別な音をヴァイオリンから紡いでいましたが、いよいよ、その特別さに磨きがかかって、これまでどれだけのヴァイオリニストが弾いてきたか分からない旋律に不思議な魅力を加えています。人生の円熟が音に出ているように感じられるのは、私だけでしょうか。
コメントをお書きください