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08日 5月 2016
母の日などといっても,もちろん特別な想い出などはなくて,せいぜいもう20年以上も前の司法試験受験生だった頃のことが思い出されます。ぼくが受験していた頃の司法試験というのは春に択一,夏に論文,秋に口述という三段構えで1年がかりの大げさな試験でしたが(択一の前に一次試験というのもあったのですが,それは大学を出ていることで免除されていました。),毎年母の日は,最初の択一式試験の試験当日に当たっていました。そのため母の日などといっても,当時の司法試験受験生にとってはまず最初の関門である択一試験に受かることが母親孝行のすべてだったのです。  あれから,いつの間にか四半世紀も経過した今日の母の日は,妻と妻のお母さんと,ぼくの母親と4人で王子ホールにコンサートに出かけました。母は,もう80代になり,今日もSuicaのカードを改札機の切符を入れるところに入れようとしたり,そのことが後で自分でもおかしくなって笑ってるような状態で,ちょっと一人だと心配もあるような年回りなのですが,この間一つだけ本当に偉いなぁと思っているのは,母が最初に妻に会った日から今日まで(妻が目の前にいてもいなくても)一度も妻のことを悪く言ったことがないことです。勤勉な群馬県人気質の母は,家の中が片付いていないと気が済まない人で,止めないといつまでも部屋の掃除を続けるのですが,妻もぼくと同じように不規則に長時間働いていて,その反動でとても人様をあげられないほど家の中が荒れ果てていても,その状態そのものは耐えられないので,掃除は続けますが,妻の作る料理をいつも美味しいと言ってたくさん食べ,何か買うのでも,何をするのでも,不思議なことに,妻に意見を聞いて,それを尊重するのです。  妻に,ときどき,自分の長男が嫁を連れてきたら,あんな風に接することができるかね,と話を向けることがあるのですが,今日もコンサートに出かける前に,妻が,ごく普通に,母に化粧をしてあげたり,アクセサリーを貸してあげたりしている様子を横で見ていました。  王子ホールは,久しぶりだったのですが,変わらず,後ろに残らないインティメイトな感じのする響きでした(ずいぶん前に新ウィーン八重奏団を聴きに来た記憶があるのですが,シュミードルのクラリネットがあまりに天国的に気持ちがよくて,せっかくのモーツァルトのクラリネット五重奏の途中で寝てしまったことだけを覚えています。)。  今日のコンサートは,妻の学校の後輩が主催しているというご縁で,もともとは受動的に母の道案内ぐらいの気持ちで足を運んだのですが,プログラム本編最後の「私の青空」(My Blue Heaven)を会場のみんなで歌ったところでやられました。堀内敬三さんの訳された歌詞は,こんな感じですが,やっぱりサビの「せまいながらも,楽しい我家 / 愛の灯影の さすところ / 恋しい家こそ 私の青空」のところは名訳で,何度も口に出しているうちに自然に涙が溢れてしまいました。  感動したので,家に戻ってさっそく調べてみると,Apple Music がやっぱりすごくて,「私の青空」で検索するだけで,1927年吹き込みの Genen Austin の最初の音源から,シナトラや,オスカーピーターソン,ピザレリ,ノラジョーンズ,吉田美奈子,安田姉妹などなど30以上の音源があっという間に出てきました。そして,YouTubeは,さらにすごくて,二村定一さんのSPをかけているところをそのままアップしたものや,エノケンさんのものなど何種類も上がっていて,改めて恐ろしい時代になったものだと思った次第です。  夕食の後,前の日に小学生の長女が母親にプレゼントすると言って,何やらお小遣いで買っていたハンカチを妻に渡していました。たしか,去年まではこんなことはなかったような気がします。